天邪鬼と北海道<前編>
「なんで寒い時にもっと寒いところに行くの?」「雪道なんて走れないでしょ?」「遠くない?」
世の中には天邪鬼と呼ばれる妖怪がいるらしく、他人の言葉や心の計ってそれとは反対の事を言ったり行動をしたりするようです。
毎年のように初日の出の求めて自転車で走ってるのですが、昨年は4月頃には頭の片隅で「今年は北海道で年越しをしたい」と思うようになり、大学時代のサイクリング部の同期と水面下で計画を進めていました。
北海道といえば、サイクリング部で夏になればキャンプツーリングで走っていて、その広大な大地を堪能したこともあります。
長かったり広かったりする道は本州でも出会えますが、何も無いわけではなく自然があり野生があり、且つ人に手によって作られた道路がある。 そこを進めばまた人がいる。 今休憩しているコンビニの次は数十キロの間、民家も自販機もないなんてよくあることで、多くの人はドラクエ感があると形容するように冒険を味わうことができるのが何よりも魅力的なのです。
そんな冒険島で目指す場所は、北海道でも一二を争う好きな場所でもある美幌峠。
標高は525mmと高くはありませんが、眼下に広がる国内最大の火山湖でもある屈斜路湖のパノラマと遠くに望む雄大な山々を同時に味わうことができる贅沢スポットなのです。 そこで初日の出が拝めることが出来たら、果たしてどれだけ美しいことでしょうか。
年の瀬になると出会う人との話のネタは年越しの過ごし方になり、「そろそろ自分も準備をしないと」と考えていれば口からは北海道のワードが出る始末。 そうなれば予想通りの言葉返ってくるのです。 しかし「やるな」と言われればやりたくなる心理というものがあり、その返事は火に注ぐ油となり余計に北海道へと行きたくさせていたのでした。
そうして迎えた2017年12月30日、踊り立つ気持ちと対峙するように「とはいっても北海道は寒い」という思いもあり、年末に入荷した新色のGorilla Jacketを手にして北へ向かいました。
約2時間、一眠りなフライトで到着したのは北海道の東側、監獄で有名な網走にある女満別空港です。
「やっぱりこの時期の北海道はさむ….くない?」、外の温度計は-0.5度。 やっぱり想像よりも寒くありませんでした。
空港近くの西女満別駅から宿に一番近い鱒浦駅まで輪行するか、事前に確認を取っておいた網走までのシャトルバスで行くか。 雪がちらつく中迷っていると運良く宿の方と遭遇し、なんと車で送ってもらえることになりました。 ここで2017年の残りの運を全て使い切ったようです。
そうこうして無事に真っ暗闇のソロライドを経験することなく、一日早く到着していた同期2人と無事に合流。 宿の人によると、いつもなら朝晩はマイナス10度くらいにはなるらしく丁度僕らが行ったときが寒くなかったようでした。
2人との近況報告もまばらに布団に潜ると、次に目を覚ましたのは大晦日の朝。
幸か不幸か吹雪かれたりすることはない曇り空で、前日までに積もった雪が溶けることもなく固まることもない、少し期待外れの#BikeTo年越のスタートとなりました。 しかし、吸い込む空気はやはりキーンと冷えていて、それがまたペダルを回し身体を温めようとする原動になっていきます。
国道はある程度除雪がされていてしっかりと積もっているのは路肩部分だけでしたが、路肩にも単に積もっているだけのところもあれば、下に凍った層が待ち構えているところもあります。
そんな凍結路面でも走行を実現するために自転車用にもスパイクタイヤが存在しているのですが、天邪鬼になりきった僕の選択肢にはもちろんありませんでした。
今回はライドの相棒VeloOrangeのPass Hunter DiscにはWTBのRESOLUTEの650bx42を装着しました。
ノブはそんなに高くありませんが間隔が広いので雪の詰まりにくさを期待。 予想通り、新雪や溶けかけのシャバシャバした氷雪は回転すればするほどタイヤから面白いほど消えていき、スリップすることなく走ることができました。 でもやっぱり凍っている路面には歯が立たないので、凍った層まで沈み込まないような豪雪地帯でなければスパイクタイヤをオススメします。
網走から国道391号を通って緩やかな峠を越えると文頭で登場した屈斜路湖が現れます。
ここは火山地帯のため旅館や温泉が多く、観光場所として栄えているため休憩や宿泊するにはピッタリなセーブポイント。 車であれば空港からも近く知床や根室方面へのアクセスもしやすいので、冬に限らず道東に訪れる際にはオススメです。
湖沿いの道を半周もすると2017年最後の寝床となるユースホステルが近付きます。 到着したのは日が沈むのと同じくらいの時間で暗くなる風景とともに気温も下がっていき、「やっぱ北海道って寒い」と当たり前だろと北風に尻を叩かれるように宿に入っていきました。
その夜は、特別に振る舞われた年越しそばを食べながら今日に出会い、明日には別れる人たちと会話をして笑う。 今まで過ごしてきた年越しにはなかった楽しさを知りました。
まだまだ年明けを祝う時間は続きそうでしたが、僕らは数時間後の初日の出に備えてエントランスから生まれる笑い声を聞きながら眠りに就くのでした。
-後編に続く-